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研究内容

マラリア媒介蚊の病原体排除・共存バランスとそのメカニズムの解明

 病原体を媒介する節足動物は、体内に侵入してきた病原体に対し、何らかの応答を働かせて排除を試みると考えられています。この試みは多くの場合完全に成功することはなく、節足動物はやむなく体内に病原体を保有することとなります。この時、節足動物は体内の病原体によって病気になることはなく、共存しているかのような状態を保ちます。このバランスこそが、媒介性を決定する大きな要因です。すなわち、この節足動物によるサイクルを断ち切ることができれば、新たな感染を防ぐことが可能であると考えられます。その実現のためには、節足動物体内における、宿主と病原体との関係を解明することが必須ですが、現在のところ未解明な点が多いのが事実です。
そこで私達は、マラリア媒介蚊をモデルとして、感染症媒介節足動物の病原体排除・共存メカニズムの解明を目指しています。マラリアは、人の赤血球内で分化したマラリア原虫(Plasmodium)が、ハマダラカ属の蚊(Anopheles)の吸血によってヒトからヒトへと運ばれて発症します。蚊体内でのマラリア原虫の発育には、蚊の中腸細胞への侵入・通過が不可欠であり、またこの侵入・通過を経てマラリア原虫の数は大幅に減少することが知られています。つまり、この時、蚊はマラリア原虫を積極的に排除し、一方でマラリア原虫は蚊の病原体排除システムから逃れるメカニズムを持っていると推測されます。そこで、蚊の中腸の構造や中腸細胞の動態を詳細に観察することにより、蚊とマラリア原虫が蚊の中腸においてどのように相互作用しているのか、を明らかにしたいと考えています。このような、節足動物と病原体の相互作用を明らかにすることができれば、節足動物の排除と共存のバランスを傾けることにより、病原体を媒介し得ない節足動物の作出が可能となります。さらには、他の節足動物媒介感染症への応用も期待されます。
(写真:ハマダラカ腹部のマラリア原虫オーシスト(緑色))