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研究内容

マラリア媒介蚊における腸管内細菌の“ゆらぎ”

  生物の共生・寄生の関係において、双方に密接な生物間相互作用とそれを介した自然選択が作用し、共進化が進むと考えられています。私達は、節足動物媒介性疾患であるマラリアと、その媒介節足動物であるハマダラカ( Anopheles stephensi )、そして蚊の腸管内に存在することが知られているセラチア菌( Serratia marcescens )に着目することで、限局されたコンパートメント内における生物間相互作用の解明を目指しています。
  近年、同一遺伝子を持った個体での表現型の違いが定量的に測定されています。また、 in vitro での人工進化系の構築も進められています。私達は、菌体を蚊の中腸内に繰り返し導入することにより、蚊の非共生細菌であるセラチア菌の in vivo 形質転換実験をおこないました。その結果、蚊の中腸に生着しないセラチア菌野生株( HB3 )から、長期生着可能な菌株( HB18 )を作り出すことに成功しました。オリジナルである野生株 HB3 は、各種表現型が不安定であるのに対し、 HB18 株は細胞分裂周期が早く、細胞形態およびサイズがほぼ均一かつ小さく、セラチア菌の特徴である鞭毛( flagella )の形成能力をほぼ完全に欠失しています。すなわち、 HB18 株では表現型“ゆらぎ”の振幅が狭いことが明らかになりました。さらに、野生株は蚊中腸においてマラリア原虫の分化を著しく抑制しますが、 HB18 株は全く影響を与えないこと、さらに、これらの形質を制御する鞭毛 マスター 調節遺伝子 flhDC について、 HB18 株ではその mRNA 発現がほぼ消失していること、またそれはプロモーターの重要制御領域( -35 box )の変異に起因することなどがわかりました。 また、マラリア流行地域である西アフリカ(ブルキナファソ)の野生ハマダラカ中腸から分離されたセラチア菌群について、同様の解析をおこなったところ、細胞形態および鞭毛の形成能力とマラリア原虫抑制能力の間には強い相関関係が見出されました。これらの結果は、腸管内に共存する細菌の表現型ゆらぎの振幅が、マラリア原虫とその媒介者間の適応・進化に大きく影響を与えている可能性を示唆しています。これらの“ゆらぎ”を制御することにより、腸内細菌を利用した新しいマラリア媒介蚊のコントロール法の開発を目指します。(写真:西アフリカ・ブルキナファソでの蚊サンプリングの様子)