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研究内容

デング熱媒介蚊における吸血行動の神経行動学的な理解

蚊などの節足動物は、吸血に伴って病原体を媒介します。吸血は「吸血標的への誘引→吸血開始→吸血停止→逃避」という連続的な過程の遂行により達成されます。最初のステップである吸血標的への誘引機構の解明は、従来から盛んに行われており、DEET等の忌避誘導の仕組みが明らかになってきました。この後に引き続く吸血停止は、標的への行動を真逆にシフトさせる上で極めて重要であると私たちは考えます。そこでデング熱媒介蚊であるネッタイシマカを用いて、吸血飽和状態の感知から吸血停止に至るまでの仕組みを制御する分子群を同定することを目指して研究を行っています。
 吸血飽和状態の感知には、神経性と体液性の2つの制御が存在すると考えられますが、蚊のように吸血開始後1-2分で標的から逃避するものでは、即応のための神経性の制御が優位にあると予想されます。この神経性の吸血飽和状態の感知には、蜜食の非吸血性昆虫種が満腹状態を感知する機構と類似の仕組みを用いていると推測されます。具体的には、腹部伸展受容などの物理的感知と食餌成分認識の化学的感知が挙げられます。後者の化学的感知システムの解明の手がかりとして、私たちは蚊にATPを添加したPBS溶液を擬似吸血させることに成功しています。すなわち、ATPを認識し濃度を感知する味覚受容体と、その味覚受容体を発現する一次神経群を同定することは、吸血飽和状態の感知機構の理解の鍵となることと考えられます。
 ATPに加えて吸血飽和状態を制御し得る分子として、非吸血性昆虫種の満腹状態を認識する分子群が挙げられます。これらの分子群が蚊の吸血飽和状態の制御においても進化的に保存されていると仮定し、研究の進んでいるショウジョウバエを併用しています。候補分子が実際に吸血飽和状態の感知や吸血停止を制御するか究明する際に、近年飛躍的に改良されたCRISPR/Cas9などのゲノム編集技術が有用となってきます。
 以上の研究により吸血飽和状態の感知および吸血停止に関わる神経系分子・神経回路が解明された際には、新規忌避剤や従来とは異なる概念のトラップの開発などへの応用が期待されます。