• TOP
  • 研究内容
  • 共生細菌ボルバキアとウイルス間の相互作用

研究内容

共生細菌ボルバキアとウイルス間の相互作用

ボルバキア(Wolbachia pipientis)は、グラム陰性の偏性細胞内共生細菌であり、地球上の半数以上の昆虫種に感染しています。雌の生殖細胞に感染し子へと伝わるボルバキアは、宿主の性、生殖を操作することにより集団内での自己の感染を拡大します。加えて、ボルバキア感染宿主細胞ではプラス鎖RNAウイルスの増殖が抑制されることが知られ、複数のボルバキア感染ヤブカ系統においてデングウイルス、ジカウイルスなどが増殖できず、媒介能が著しく低下することが明らかとなりました(Moreira et al., Cell 2009)。このヤブカ体内でのウイルス増殖抑制機構の仕組みについては、個体、組織レベルでの定量的な解析に留まっており、細胞、分子レベルでの理解は進んでいません。ヤブカのウイルス伝播能低下に深く関与する、ボルバキアが標的とする細胞、分子を同定することは、生物が進化の過程で獲得した能力を応用し、効率的に感染症の伝播を阻止する戦略の開発に繋がることが期待されます。
 そこで我々は、ボルバキア感染ヤブカ体内におけるウイルスとボルバキアの分布を詳細に観察することにより、ボルバキアとウイルスが相互作用する細胞の特定を目指しています。また、ボルバキア感染培養細胞を用いて、ボルバキアが標的とするウイルス増殖ステップ、宿主因子の同定等を行っています。特に、ボルバキアが宿主細胞内でRNA結合タンパク質複合体と相互作用する現象に注目しています。ウイルス増殖抑制効果を持つボルバキア因子の同定にも取り組んでいます。
 ボルバキアによる宿主昆虫体細胞でのウイルス増殖抑制は、他種から人為的に導入され、ボルバキアが異常増殖した昆虫系統で顕著ですが、自然界でボルバキアに感染している個体ではほぼ見られません。このウイルス増殖抑制は、本来は別の働きをする機構による副産物である可能性があります。ボルバキアとウイルスの相互作用の解析から、それらの隠された働きが明らかにされることが期待されます。