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研究内容

吸血ターゲット認識におけるマラリア媒介蚊の口吻の新しい役割

    マラリア媒介蚊であるハマダラカは、宿主の存在を認識し、正確に近づき、そして吸血します。このハマダラカの標的認識の際には、標的由来の様々な誘引要素が利用されていると考えられています。これまで主に人工的な誘引実験から、ハマダラカの誘引要素の候補として熱、色、二酸化炭素( CO 2 )、動き、汗の匂いなどが挙げられています。
蚊が吸血標的を認識するためには、触角や小額髭といった頭部付属肢が重要な役割を果たしています。一方、昆虫の口吻は、摂食時の味覚情報処理に関与する付属肢であることが知られています。特に吸血性節足動物の場合、口吻は吸血標的の皮膚直下に分布する血管を探索しその後吸血するための有用な器官であると考えられています。私達は、マラリア媒介昆虫であるハマダラカ(Anopheles stephensi)のCO2依存性熱(35℃)センシング行動を定量する自動記録装置を開発し、各付属肢の切断実験を行った結果、この行動には、触角や小額髭だけではなく、口吻も貢献しているということを明らかにしました。この一連の行動に依存する口吻の機能は、蚊の行動の活性化に影響を与えているCO2センシング機能と明確に区別されます。すなわち、口吻のアンテナ機能が熱認識に特化されていることがわかりました。一方で、蚊における熱センサー分子の候補であるTRPA1チャネルの局在を免疫染色によって検証したところ、口吻先端(labellum)を含む口吻全体に、TRPA1を発現する感覚子が存在することを見出しました。またTRPA1のアゴニストであるアリルイソチオシアネート(AITC)を蚊に曝露すると、それに応じてCO2依存性熱センシング行動が有意に減少し、通常の状態に戻すと30分以内に行動が回復しました。この結果は、CO2依存性熱センシング行動にTRPA1が関与することを強く示唆するものです。以上のことから、蚊の口吻は、摂食時または吸血時に加え、標的認識行動における熱アンテナとしても機能していることがわかりました。近距離で使われる熱探針のためのニューロンと分子が、遠距離で機能する熱アンテナ内において流用されている可能性、および口吻を含む様々な付属肢がアンテナ器官として進化した背景について、さらなる研究を進めています。