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研究内容

ヒトにおけるキチン分解酵素の生理的的機能解明

オーファンエンザイム(みなしご酵素)とは、タンパク質構造から想定される基質が存在しない場所(器官・組織・細胞)にもかかわらず、そこで発現している酵素を指します。その場合の基質の実態や機能は不明であり、病態への関与が疑われています。
 セルロースに次ぐ豊富なバイオマスであるキチンは、主に節足動物の外骨格、軟体動物の甲、真菌類の細胞壁などの構成成分として、地球上に広く分布しています。それらを分解するキチン分解酵素(キチナーゼ)は、キチン質を外骨格および細胞壁に保有する昆虫、甲殻類および真菌類の他、自身にキチン質を持たない微生物、植物、動物のゲノム中にも保存されています。その生理的機能は、生物種により異なり、それらの生体内で必須機能である栄養摂取、形態変化、生体防御などの重要な生理的機能に関与すると示唆されています。
 ヒトを含む哺乳類は、キチン質を保有しませんが、ヒトは2種の活性型キチナーゼ、キトトリオシダーゼおよび酸性哺乳類キチナーゼを発現します。これら酵素は、①摂取したキチン質(小型甲殻類やキノコ類)の消化・吸収および、②真菌感染症・寄生虫類に対する生体防御機能が考えられます。しかし、基質としてのキチン質への接触機会が極端に減少している現在、ヒトにおけるキチン分解酵素の生理的役割は明確ではありません。また、ヒトキチナーゼは特定の病態(ゴーシェ病や喘息など)と強く相関することが報告されていますが、本酵素と病態との相関およびその存在意義は明らかとは言えません。特に、オーファンエンザイムに示されるように、基質がない状態での本酵素の異常な挙動とそこから導き出される病態が存在する可能性が考えられます。
 私達は、ヒト臨床検体を用いて、本酵素の生化学的諸性質の検証と、アレルギー症状、感染症および診療情報などを複合的に評価することで、ヒトキチナーゼとそれに関わる病態との関連および、本酵素の生理的役割の解明を目指しています。